2024年5月10日、国の安全保障上重要な経済安全保障分野の情報を「重要経済安保情報」に指定し、取り扱う人を、国が認めた有資格者に限定する「セキュリティー・クリアランス制度」を創設するための法律が参議院本会議で可決され、成立しました。制度の対象となるのは、政府職員や、政府と契約して情報に触れる民間企業の従業員などで、本人の犯罪歴などが調査されます。

そもそも「平和憲法下」でのこの法案は、憲法違反だとは思うけれども、さらにいくつかの問題点・心配事をまとめてみよう。
参考は、2024年5月11日(土曜日)毎日新聞朝刊。

2014年に特定秘密保護法が成立した。民間企業から政府機関に出向し、職務で扱う情報が特定秘密保護法の定める安全保障上の「特定秘密」に指定された。法律では、身辺調査をクリアした有資格者だけが情報を扱える。セキュリティクリアランス(適正評価、SC)と呼ばれる制度である。特定秘密保護法の対象は、防衛、外交、テロ防止、スパイ防止の4分野に限られていた。これを今回成立した「重要経済安保情報保護・活用法」は、経済分野に拡大する。という中身である。このことで

1, SCの調査を受けるのは、これまで政府関係者が大半だったが、民間企業の従業員が大幅に増える。

2, 半導体や宇宙開発といった先端技術彌サイバー攻撃などの経済安保に関わる職業が想定される。

3, 身辺調査では、親族の国籍や飲酒癖、犯罪歴、精神疾患の通院歴、灌漑渡航歴、借金の有無などが幅広く評価される。

以下問題点をいくつか指摘しておきたい。

問題点1 プライバシーの侵害や仕事への影響

①「プライバシーの侵害」との声が上がる。本人や家族の私生活に関わる情報がどこまで調べられるのか。具体的な運用の在り方は、不明瞭なままだ。

②日本弁護士会は、「(適正評価に)同意しなければ研究開発の最前線からはずされたり、人事考課・給与査定などで不利益を受けたりする可能性も否定できない。調査の行き過ぎを抑止する仕組みも想定されていないようであり、プライバシー保障の観点から疑問がある」
と懸念を表明している。

③同様な法律があるアメリカや欧州では、SC評価に不服がある場合、政府から独立した機関に苦情を申し立てることができる。日本は、苦情申し立ては、評価を実施した「行政機関の長」に対して行うよう定められている。「審査した機関が自ら審査しても十分なチェック機能は、働かない」という指摘がある。

問題点2 制度の核心があいまい

① 政府が保全対象となる「重要経済安全情報」の詳細を法案成立後に決めるとしている。
このことから、制度の核心部分に関する岸田首相らの答弁は具体性に欠け、議論が深まらなかった。

② 重要経済情報の指定範囲を巡って、政府は具体的な指定範囲を明かさず、野党からは「無制限に拡大しうる」など懸念が示されている。

③ 政務三役が適正評価の対象外とされている。政治家こそ、チェックされるべきではないか。
④ 「運用基準」についてそもそも政府は法成立後閣議決定するとしており、「国会のチェック」なしで、決まることになりそうだ。

問題点3 今後にむけての心配

① 野党の立憲民主党が制度の運用状況を国会に報告するなどとした修正案を与党が受け入れたことから賛成に回った。
このことから、労働組合も市民連合も反対に立ち上がるには多くの苦労が伴うこととなった。大きな市民集会・デモも(やっていかなければならないが)簡単にはできないだろう。

②  この運用が始まれば、数万人そして数十万人の身辺調査ができるようになり、やがて全国民が調査可能という国民監視システムが構築される心配がある。

③ 戦前のあった特高警察のような人権を無視して連行する・調査する。そして今度はアメリカと一体となって戦争への道を歩んでいるようにしか見えない。情報を共有して反対していきましょう。